みやこうせいさんから新しい本が送られてきたのは春のことだった。
わたしはまだ震災の渦中にいて、はるか遠い異国の世界に心を移す余裕すらない状態だった。それでも本のさいごに収録されているCDは、その場でひらき聴いた。なぜか、懐かしく、癒された。まるでとおい昔を思い出すように、奥ふかく染みこんで。
みや氏のルーマニアの一連の写真も、やはり同じように郷愁を感じる。そこに写る人々は、衣装も顔立ちもまったくちがうのに、つい一昔前のこの辺のおばさんたちを彷彿とさせる。生活そのものが躰にしみついた顔、暮らしの中から湧き出る笑顔。子どもたちの無邪気な姿。そして、農家の庭先の原風景。日本もほんの少し前まで素朴であった。
「カルパチアのミューズたち」ルーマニアの音楽誌 みやこうせい(未知谷)
みや氏はいう。「ルーマニアに長いことかかわっているのも結局、その風土、人情、歌、踊りによる。住民のラテン気質とともに、耳に入ってくる声と音に何より本来、自由な精神を発揮する原初の人間を感じたのである。これまで、ルーマニアの音楽を聞かないで、あるいは想像せずに過ごした日はこの数十年、一日たりとない。」本のあとがきに、そう記してある。この分厚い本は「ルーマニアの音楽誌」と副題が表すように、歌いつがれてきた民族の魂の本である。
ねんねんよ/カッコウの赤ちゃん/カッコウちゃんゆらす/母さん
お出かけ/ねんねんよ/魚の赤ちゃん/魚ちゃんゆらす/丈夫に
育ってね/ねんねんよ/ねむったらすること沢山残ってる、家に
も外にも、秋でも夏でも(仕事が多い、だからお眠り、と歌う)
ねんねんよ」
ルーマニアの子守り歌。日本の子守り歌といっても、なんの違和感もない。どこの国の女たちも同じ思いで子守歌を歌ってきたのですよね。
ルーマニアの奥深く分け入り、人々の懐に深く交じり合い、すっぽりととけ込んだみや氏ならではの渾身の一冊。まるで「遠野ものがたり」の世界。異国の空へふっと連れて行ってくれる。
野田村日形井